「731部隊―実像と虚像」講演録 14
スライド29の左右の写真は同じ写真です。写真の下のキャプションの変遷を見てください。最初は「鉄嶺に於けるペスト死体解剖、其二」、その下に英語で(Dissecting Victims of the Plague, Tiehling,-No.2)。そして出典として(『明治43年・44年南満洲ペスト流行誌附録写真帖』1912‐3年)と続いています。出典としてあげた本は国立国会図書館と京都大学の図書館にあります。この写真はどっちかの写真帖からデジカメで撮影しました。きれいな写真を撮ろうとすると、本を壊しちゃうんですね…そういうことしちゃいけないということで、こんなふうに曲がっています。曲がっていますけれども、上に日本語、下に英語の今紹介したキャプションがあります。
この写真の上と下、つまりキャプション部分とその周りを少しづつちょんぎったのが左の写真。この上下のキャプションとその近くを切り取った写真は森村さんの『続・悪魔の飽食』に出ていましたが、その時は「マルタの運命・4 女子供を問わず、解剖された」というキャプションが付けられていた。これが現在は、「生物戦実験の被害者を解剖する731部隊の科学者」としてシェルドン・ハリス、さっき言ったNHKの番組のリサーチャーの本『死の工場』の第二版、で採用されています。これは「中日戦争の真実を追究する同盟」がシェルドン・ハリスに提供したことになっています。なお日本で読める第一版にはこの写真はありません。
シェルドン・ハリスの写真と『悪魔の飽食』の写真は、切っているところが一緒です。キャプションが分からないようにしている。実はこのとき、1910年から12年にかけて満州で約5万人が肺ペストで死んでいる。肺ペストというのは、人から人に感染する。ノミは関係ありません。咳をして飛沫が飛び、それを吸い込むと感染します。ですから人から人へと感染する。そのときは確か5万人近くが死亡。それから1920-1年の冬にも10年後ですけど肺ペストが流行して、やはり1万人近くが死亡している。
さてなぜ同じ写真を並べたのか。左の写真のキャプションは極悪非道な医学者の所業を指摘しています。右は、ペスト流行を食い止める、あるいはこれからペストが流行ったときにペスト制圧するためにどうしたらいいかをつかむために、感染の恐怖と闘いながら、解剖している医学者ということになります。
同じ写真です。どっちも残酷そうです。それぞれキャプションを読んでこれら写真を見ると、左の写真の手術台・解剖台の上のヒトは、石井の言葉で言えば「丸太」なんですね。右のヒトは患者なんです。キャプションなしだと、何がなんだか分からず途方にくれてしまう。
外見的には残酷非道でも、内実は献身的な医療活動もあれば、外見的には治療活動でも実態は非道な人体実験、というのもあるでしょう。それを外見的に区別できるのか。そんなことを言うのは、僕たちが今の日本の医療を受ける時、僕たちは右の写真の立場だと思っていますが、実態は左のキャプションの立場じゃないのと疑っているからです。
科学の歴史をやっているのは、科学の現状に何かおかしいな、現状を肯定せずに批判したいと考えているからです。歴史をやるというのは現代に対する根底的な批判があって成り立つのではないか、と僕は考えています。日本の医療現場では多くの場合、患者がこういうマルタとしての扱いしか受けていないんじゃないかなあと思ったりする。それも石井機関・731部隊の研究を始めた動機のひとつです。
外見的には分からない、医者の頭の中は分からない。もっとも医者の頭の中で半分くらいマルタを思わないと医者としての判断が出来ない、人間だと思ったらメスなんかふるえないと思ったりもします。
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