「731部隊―実像と虚像」講演録 7
左はA、中がG、そして右がQレポートです。AとGの被験者たちは部隊ではマルタと呼ばれていましたが、番号でしか呼ばれませんでした。それから年齢は25才とか35才とかいうのもありますが、単に若い男とか約30才とか、そういう表現もあります。
他方Qレポート。新京でのペストの流行についての報告ですが、柱の左端の列のSの一番というのは新京の一番とか新京の二番という患者番号を意味しています。患者番号の右の列にアルファベット二文字があります。これは患者のイニシャルです。僕だったらT・KかK・Tです。それから次ぎの列は年齢です。一番上は6才。それとかずっと、30才とかいろいろとあります。それから次ぎに書いてあるのは男性か女性かです。その次の列は発病してから死ぬまで何日かかっているかという数字です。右端の列はペストの種類で、基本的にはほとんどGですから腺ペストばかりです。
ここで僕が申し上げたかったのは、右側のAとかGのレポートの人体実験だと、こういう個人情報がほとんどない。イニシャルだとか、年齢でも正確な年齢は出てきません。番号と若い男とかそういう表現になっている。これから分かることは、違法・許されない人体実験の被験者は名前どころか、ほとんど全ての個人情報を剥奪されている。他方、治療の場合は、論文では実名は避けるにしろ、イニシャルや年齢、それに性別を書き、患者の特定ができるような個人情報が示されている。
例えば新京のペストでは患者28人が出て、26人が死にますが、そのうち半分が日本人、半分が中国人。その区別は大元の論文の患者名簿で分かります。スライドのQレポートの表はその大元の論文を英語化したものです。被験者の名前があるかどうかが許される人体実験かどうかというときにはかなり重要な要素になるのではないか、と考えています。
スライド16
スライドの右側部分は、彼の「サル」を使った特殊実験を記述したページです。表の上に「イヌノミニヨルさる攻撃」と書いてあります。この表によれば、ノミ1匹使っただけでは何も起こりませんよ。もっと使うと、5匹だと1頭発病します。10匹だと2頭発病します。そいうことが書かれている。赤の下線の部分に「発症さるハ附着後6-8日ニシテ頭痛、高熱、食思不振訴ヘ同時ニ局部琳派腺ノ…」と書いている。
これ本当に猿?とクラスで学生に聞いたら「猿は訴えないでしょ」という。人間だからですよね。食欲旺盛な猿が餌を食べなくなったらこいつ何か悪いもの食ったなあ、具合が悪いなあ、食欲ないなあというのがわかる。熱があるのはわかる。赤い顔がもっと赤くなる?でも頭痛は分からない。
「頭痛」の文字は言われないと読めないかもしれません。この2文字が「頭痛」であることを確認するまでの作業を、楽屋裏を公開します。スライドの左下に書いてありますが、日本の博士論文のかなりのものが国立国会図書館の関西館に所蔵されている。ここに書いてあるUT51-60-Q534というのが平沢の博士論文の国会図書館での請求番号です。関西館に行くといっぺんに10冊くらい見ることができます。それでなくてこれだけ見たいと思えば、東京の国会図書館に行って一週間前に頼んでおくと、一週間後にはこれを見ることができます。僕は軍医学校の防疫研究室の人たち30~40人分見たかったので関西館に行ったんですが、大量なのでコピーだけして帰ってきたんですね。これを見て、どうも「頭痛」と読めるんですけれどもコピーだとよくわかりません。ですからこれは取り寄せなきゃいかん。でやっぱりこれは「頭痛」であるということを現物で確認しています。関西館まで行かなくて東京で見られるということは本当に楽になったなあと実感しています。請求番号もネットで調べるとすぐ分かりますので、簡単に見ることができるようになった。
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